受賞を受けて
この度、拙著『肥後と球磨 その原史世界に魅せられし人々―肥後と球磨の考古学史―』が、第39回熊日出版文化賞の栄誉を受けることができましたこと、改めまして、御報告させていただきますと共に、これまで御指導いただきました、諸先生、諸先輩、同僚の皆様に心から感謝申し上げたいと思います。
この受賞に当たりまして、その評価を「熊本の考古学史を詳しく扱った非常に真面目な本。分かりやすい文章で、研究者の姿もよく分かる」(熊本日日新聞3月13日付け)と報じていただきました。しかも、作家・石牟礼道子さんや建築史学者・伊藤重剛さんと名を連ねられたことへの喜びには、格別なものがございました。
拙著は、明治11(1878)年に始まった熊本の考古学史を題材に、昭和29(1954)年の、考古学少年・井上猪一郎さんの死までの76年間におきた、150名の学者たちの、様々な物語を綴った評論です。そこで心がけたことは、単なる学説の羅列ではなく、人間ドラマとして、可能な限り考古学者の姿が表現できればとの思いでした。その意味で、「研究者の姿もよく分かる」との評には、一入のものがありました。
文化財の関係業界においては、官民問わず、人が見える調査研究が求められると考えております。人々がどのように生き、社会を作り、歴史を紡いできたのかは、地中に眠った考古資料、紙や金石に書き記された文字資料、町なかの一角に佇んだ建造物などの文化財が生き生きと物語っています。ただし、それらの声をどう聞けるのかは、そこに携わる関係者の耳や目に委ねられてもいます。そのためにも、新しい探査・計測の手法や理化学的な分析を積極的に取り入れながら、古人(いにしえびと)の声に聞き耳を立てる、そんな姿勢を大切にしなければならないと、思いを新たにしたところでもあります。
弊社での文化財の調査研究は、そうした強い思いの発露として取り組めればと強く思っておりますので、今後も、文化財の保存活用の力になっていけるよう、日々精進して参る所存です。
また、微力ではありますが、弊社の文化財の調査業務が発展しますように、人材の育成や業務精度の向上に努めてまいりたいと思います。今後とも、御指導をお願いできますれば、幸甚に存じます。
真に有難うございました。
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